— Section 01

自力経営とは借入をしない経営ではない

まず結論を押さえる

自力経営という言葉を、借入をまったくしない経営と捉える必要はありません。必要な投資や成長のために金融機関と付き合うことは、中小企業にとって重要です。問題は、赤字や資金不足を借入で埋め続け、本業で資金を生み出す力が弱くなっている状態です。

私が経営改善の先に置いているのは、「自力経営への転換」です。そのためには、経営理念、経営ビジョン、事業ドメイン、経営環境の把握、経営課題抽出、経営戦略、経営計画、アクションプラン、組織の機能、評価制度、目標必達マネジメントという流れで経営基盤を整える必要があります。

私は、企業再生・経営改善の現場で累計160社超の中小企業をご支援し、日本政策金融公庫10億円融資獲得支援などにも関わってきました。著書『コンサルティング現場での実践経営分析』では、決算書分析、現状分析、社風分析、社外インタビュー、改善プログラム、自力経営への転換、モニタリングまでを一連の実務として整理しています。

年商10億円から20億円規模の会社では、社長の頑張りだけでは会社全体を動かし切れません。自力経営に転換するとは、社長一人の経験や金融機関からの借入に依存するのではなく、会社の中に利益と資金を生む仕組みを持つことです。

— Section 02

経営理念とビジョンを実務に落とす

理念は飾りではなく判断基準である

経営理念やビジョンを掲げていても、日々の判断に使われていなければ経営基盤にはなりません。理念は、会社が何を大切にし、何のために存在し、どの顧客にどの価値を提供するのかを示す判断基準です。ビジョンは、将来どのような会社でありたいかを示す方向性です。

資金繰りが厳しい会社では、短期の支払いに追われ、理念やビジョンどころではないと感じることがあります。しかし、何を残し、何をやめ、どの顧客を大切にし、どの事業に資源を集中するかを決めるには、判断基準が必要です。理念やビジョンが実務に落ちていない会社では、改善の優先順位がぶれます。

自力経営に向けた経営基盤づくりでは、理念とビジョンを社長の言葉だけで終わらせず、幹部、営業、現場、管理部門の行動に落とし込む必要があります。どの数字を追うのか、どの行動を評価するのか、どの取引を伸ばすのか。そこまで結びついて初めて、理念は経営の仕組みになります。

— Section 03

事業ドメインと経営資源を見直す

何で飯を食う会社なのかを再確認する

自力経営への転換では、事業ドメインの再確認、経営環境の把握、経営資源評価、SWOT分析、経営課題抽出が欠かせません。これは、会社がどの領域で戦い、どの強みを活かし、どの課題を優先して解決するかを決めるための作業です。

年商10億円を超える会社では、過去の成長過程で事業領域が広がりすぎていることがあります。売上のために引き受けた不採算取引、社長の思いで続けている低収益事業、片手間で始めた新規事業、現場の負担だけが増えている商品。こうしたものが積み重なると、売上はあっても利益と資金が残りにくくなります。

自力経営では、何でもやる会社から、強みがあり収益力を持つ領域に資源を集中する会社へ変わる必要があります。売上規模を守るために赤字取引を続けるのではなく、自社が本当に価値を出せる領域を確認し、利益を生む事業構造へ整えていくことが重要です。

事業ドメインの問い
自社は何で飯を食う会社なのか。どの顧客に、どの価値を、どの強みで提供するのか。この問いに答えられないと、経営改善の優先順位は決まりません。
— Section 04

アクションプランと評価制度を連動させる

計画を作るだけでは会社は変わらない

経営計画は、スコアカードによる実施項目、数値目標、評価指標に落とし込み、さらにアクションプランとして行動計画に変える必要があります。これは、計画を作るだけでなく、誰が何をいつまでに実行するかを明確にするためです。

自力経営に転換できない会社では、計画と現場の行動がつながっていないことがよくあります。経営計画には売上目標や利益目標が書かれているのに、営業担当者や現場責任者の日々の行動に落ちていない。幹部の評価も、会社が本当に達成したい数字と連動していない。これでは改善は定着しません。

評価制度も重要です。職位や職責に合った実績の出せる評価制度を再構築しなければ、社員は何を優先すべきか分かりません。粗利を重視したいのに売上だけを評価する、回収を早めたいのに受注だけを見る、部門連携を求めるのに個人実績だけを見る。こうした評価のズレは、経営改善を妨げます。

特に、年商10億円を超えた会社では、評価制度が社長の感覚だけで運用されていると幹部が育ちません。会社が何を重要視しているのかを数字と行動で示し、評価と会議とアクションプランを連動させることで、社員は自分の役割を理解しやすくなります。

  1. 経営計画を部門別の数値目標に落とす
  2. 数値目標を具体的なアクションプランに変える
  3. 責任者、期限、確認方法を決める
  4. 評価制度を売上だけでなく粗利、回収、改善行動と連動させる
  5. 幹部が自部門の数字を説明できる状態にする
— Section 05

PDCAを社長の意思ではなく仕組みにする

目標必達マネジメントを運用する

経営計画のモニタリングでは、スコアカード、アクションプラン、先行管理、予実管理の評価と見直しを継続します。自力経営に必要なのは、計画を作ることではなく、計画を達成するためのPDCAを回し続けることです。

社長が毎回号令をかけなければ動かない会社は、自力経営とは言えません。目標、行動、実績、差額、原因、対策を定期的に確認する会議体と資料があり、幹部が自分の責任範囲を説明し、現場が次の行動を理解している。こうした仕組みがあって初めて、社長一人に依存しない経営基盤になります。

CNCでは、財務力、組織力、事業力、意識改革の観点から改善プログラムを策定し、自力経営への転換を支援しています。資金繰り改善や銀行対応は重要ですが、それだけでは会社は強くなりません。会社が自分の事業で資金を生み、組織で改善を回し続ける基盤を整えることが重要です。

自力経営に転換するとは、銀行借入を否定することではありません。社長一人の経験や資金調達に頼り続けるのではなく、経営理念、ビジョン、事業ドメイン、経営計画、アクションプラン、評価制度、PDCAを整え、会社が自分の力で資金を生み出す基盤をつくることです。年商10億円を超えた会社ほど、この経営基盤の有無が次の成長と安定を分けます。