経営分析は過去確認ではなく次の意思決定の材料
まず結論を押さえる
経営分析の目的は、過去にどのような経営をしてきたかを理解し、その分析結果を将来の経営に役立てることです。決算書を作った、税務申告が終わった、銀行に資料を出した。それだけで経営分析を終わらせてしまうと、会社は同じ課題を繰り返します。
私が著書『コンサルティング現場での実践経営分析』で整理しているように、分析や計画立案はスタート地点にすぎません。経営安定のためには、分析結果をもとにアクションを起こすことが重要です。年商10億円から20億円規模の会社では、この考え方が特に重要です。
私は、企業再生・経営改善の現場で累計160社超の中小企業をご支援し、日本政策金融公庫10億円融資獲得支援などにも関わってきました。著書『コンサルティング現場での実践経営分析』では、決算書分析、現状分析、社風分析、社外インタビュー、改善プログラム、自力経営への転換、モニタリングまでを一連の実務として整理しています。
この規模の会社では、売上、粗利、在庫、売掛金、借入金、固定費、人員配置、部門間の連動が複雑になります。社長が「なんとなく見えている」と感じていても、実際には資金の詰まりや利益の漏れが見えにくくなっていることがあります。
年商10億円を超えると社長の勘だけでは限界が出る
売上規模の成長と管理の難しさは同時に進む
年商数億円の段階では、社長が主要顧客、仕入先、現場、資金繰りを直接見て判断できることがあります。しかし年商10億円を超えると、営業部門、製造・現業部門、管理部門、財務部門が分かれ、社長の目が届く範囲は相対的に狭くなります。
売上が増えているのに利益が残らない、忙しいのに資金繰りが苦しい、幹部からの報告と実態が合わない。こうした悩みは、社長の能力不足ではなく、会社の規模に対して分析と管理の仕組みが追いついていないことから起こります。
この段階で必要なのは、社長の勘を否定することではありません。むしろ、社長の経験を数字と現場情報で補強し、判断の精度を上げることです。経営分析は、社長の直感を裏付けるためにも、思い込みを修正するためにも使えます。
売上は伸びているが預金が増えない、幹部が忙しいと言うが利益が出ない、銀行から資料要求が増えた、月次の数字が遅い。これらは経営分析の仕組みを見直すサインです。
決算書だけでなく現場資料を集める
情報収集の精度が分析の精度を決める
私が経営分析で重視しているのは、情報収集の精度です。決算書だけでは会社の全体像は見えません。過去3年分の決算書、直近の試算表、税務申告書、借入一覧、資金繰り表に加えて、組織図、人員構成、販売先・仕入先の情報、現場の管理資料、社内アンケート、銀行や取引先との関係まで確認する必要があります。
年商10億円から20億円規模の会社では、数字は部門ごとに分かれて存在していることが多くなります。営業は受注見込みを持ち、現場は生産や消化の見込みを持ち、経理は資金繰りを見ています。しかし、それらが一枚の経営判断資料としてつながっていないと、社長は全体最適の判断ができません。
- 3期分の決算書と直近試算表
- 月次の売上、粗利、固定費、営業利益
- 売掛金、在庫、買掛金、借入返済の推移
- 部門別、商品別、取引先別の採算
- 組織図、人員配置、幹部の役割
- 営業、現場、財務の先行管理資料
経営分析は、資料が多ければよいというものではありません。大切なのは、会社の全体像と資金の流れを説明できる資料をそろえることです。社長が「この数字は誰が責任を持って見ているのか」と確認できる状態にすることが、分析の第一歩です。
外部分析と内部分析を分けて考える
銀行が見る分析と社長が使う分析は目的が違う
経営分析には、外部者が行う外部分析と、企業内部で経営に役立てる内部分析があります。金融機関は融資判断のために安全性や返済可能性を重視します。投資家であれば収益性や成長性を見ます。一方、経営者が行う内部分析では、どこが問題点なのか、どう改善できるのかを重視します。
銀行から格付けや融資判断のために見られる指標を意識することは必要です。しかし、銀行評価をよく見せるためだけの分析では、会社は強くなりません。社長が見るべきなのは、銀行にどう見えるかと同時に、自社のどこで利益が生まれ、どこで資金が失われているかです。
収益性、安全性、生産性、成長性の分析は、単なる指標の良し悪しではなく、経営判断につなげてはじめて意味があります。粗利率が下がっているなら、値引き、外注費、材料費、商品構成のどこに原因があるのか。安全性が低いなら、借入返済、在庫、売掛金、固定資産投資のどこが重いのか。そこまで掘り下げる必要があります。
分析結果をアクションに変える
分析して満足する会社は変わらない
コンサルティング現場でよくある問題は、分析が終わると満足してしまうことです。経営計画を作った、資料をまとめた、会議で共有した。そこで止まってしまえば、会社の数字は変わりません。分析や計画はスタートであり、作成しただけで満足していては窮境状態から脱出できません。
分析結果を活かすには、改善テーマ、責任者、期限、数値目標、確認会議を設定する必要があります。売掛金回収を早める、在庫を圧縮する、赤字取引を見直す、固定費を削減する、営業の受注精度を上げる。これらを誰がいつまでに行うのかを決めなければ、分析は単なる資料になります。
社長が最初に決めるべきことは、すべてを一度に変えようとしないことです。資金繰りに直結する課題、利益率に直結する課題、幹部の行動に直結する課題を分け、優先順位をつけます。経営分析は、問題を増やすためではなく、社長が迷わず打ち手を選ぶために行うものです。
年商10億円を超えた会社の社長に必要なのは、全てを自分で見ることではありません。経営分析の仕組みをつくり、幹部が数字と現場をつなげて報告できる状態をつくることです。CNCでは、決算書分析、現状分析、社風分析、社外インタビュー、改善プログラム、経営計画モニタリングまでを一連の流れとして支援しています。
年商10億円を超えた会社では、売上高だけを見ても経営の全体像はつかめません。最初に見るべきなのは、資金がどこで増え、どこで詰まり、どの部門が利益を生み、どの活動が資金を食っているかです。経営分析は過去を眺める資料ではなく、社長が次の一手を決めるための武器です。

