— Section 01

黒字と資金増加は同じではない

まず結論を押さえる

黒字決算なのに預金が増えない。売上も利益もあるはずなのに、月末になると資金繰りが苦しい。年商10億円から20億円規模の中小企業では、この悩みが非常によく起こります。原因は、利益と資金の動きが一致しないことにあります。

損益計算書は利益を示しますが、資金がどこにあるかまでは示しません。売上を計上しても、売掛金として残っていれば現金は入っていません。在庫を増やせば、資金は商品や材料に変わります。設備投資をすれば、資金は固定資産に移ります。借入返済をすれば、利益があっても預金は減ります。

私が貸借対照表分析で重視しているのは、「キャッシュを読むこと」です。流動比率や当座比率を見るだけでは初級レベルであり、資金の過不足の原因を明らかにすることが重要です。

私は、企業再生・経営改善の現場で累計160社超の中小企業をご支援し、日本政策金融公庫10億円融資獲得支援などにも関わってきました。著書『コンサルティング現場での実践経営分析』では、決算書分析、現状分析、社風分析、社外インタビュー、改善プログラム、自力経営への転換、モニタリングまでを一連の実務として整理しています。

— Section 02

貸借対照表分析の目的は資金の過不足を知ること

財務三表はどれか一つだけでは判断できない

貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書のどれか一つだけで、会社の経営状態を正しく知ることはできません。どれか一つの数字がよくても、別の数字にひずみがあれば、いずれ経営に影響します。特にキャッシュフローが合わない場合、待ってくれる時間はありません。

貸借対照表分析では、運転資金と固定性資金の運用から資金の過不足の原因を明らかにします。つまり、資金が営業活動に使われているのか、在庫や売掛金に滞留しているのか、固定資産投資に回っているのか、借入返済で外に出ているのかを確認します。

年商10億円を超える会社では、少しの回収遅れや在庫増加でも金額が大きくなります。月商1億円規模の会社で回収が1か月遅れれば、それだけで大きな資金が売掛金に固定されます。黒字なのに資金が増えない会社は、まず貸借対照表で資金の置き場所を確認すべきです。

社長が見るべきなのは、単月の利益だけではありません。利益が出た月に現預金が増えたのか、増えていないならどの勘定科目に資金が移ったのかを確認します。ここを毎月見ていくと、会社の資金繰りが悪化する前に、回収条件、在庫水準、投資判断、返済条件のどこに手を入れるべきかが見えやすくなります。

— Section 03

運転資金から売掛金と在庫の詰まりを見る

営業債権、棚卸資産、営業債務のバランスを見る

運転資金は、会社が日々の営業活動を回すために必要な資金です。売掛金や受取手形などの営業債権、在庫などの棚卸資産、買掛金や支払手形などの営業債務のバランスを見ることで、資金がどこに詰まっているかが分かります。

売掛金が増えている場合、売上は伸びていても回収が追いついていない可能性があります。在庫が増えている場合、売れる前の商品や材料に資金が固定されています。買掛金の支払いが早く、売掛金の回収が遅ければ、その差額を会社が立て替えることになります。

資産と負債のバランスが適正でなければ、資金の過不足の大きな原因になります。経営者が見るべきなのは、売上高や利益額だけではなく、売掛金、在庫、買掛金の増減と立替期間です。

特に、売上拡大局面では注意が必要です。売上が増えるほど仕入、外注費、人件費、在庫、売掛金が先に増え、入金は後から来ます。成長している会社ほど資金が苦しくなるのは、経営が悪いからではなく、成長に必要な運転資金を読めていないことが原因の場合があります。

  1. 売掛金が売上増加以上に増えていないか
  2. 在庫が過剰になり資金を固定していないか
  3. 買掛金や支払条件とのバランスは適正か
  4. 月商に対して運転資金の立替期間が長すぎないか
— Section 04

固定性資金と減価償却を見落とさない

設備投資は利益ではなく資金で見る

黒字なのに資金が増えないもう一つの原因は、固定資産への資金投入です。設備投資、建物、機械、車両、システム投資などは、損益計算書上は一度に費用にならないことがあります。しかし資金は先に出ていきます。

固定性資金の分析では、減価償却費を加味して見なければなりません。減価償却費は現金支出を伴わない費用であるため、資金分析では単純に損益計算書の費用として見るだけでは不十分です。固定資産の増減、借入金の増減、減価償却をあわせて見なければ、資金の流れはつかめません。

年商10億円から20億円規模の会社では、設備投資や拠点投資が成長のために必要になることがあります。しかし、投資によってどれだけ資金が固定され、どれだけ回収できるのかを見ずに進めると、黒字でも資金繰りが苦しくなります。投資判断は、利益計画だけでなく資金計画とセットで行う必要があります。

設備投資の前に確認すること
投資額、借入条件、返済額、減価償却、回収期間、運転資金への影響を同じ表で確認します。利益が出る見込みだけでは、資金繰りの判断としては不足です。
— Section 05

社長が毎月確認すべき資金の流れ

月次で見るべき数字を決める

貸借対照表分析は、年に一度の決算時だけに行うものではありません。黒字なのに資金が増えない会社ほど、月次で資金の流れを確認する必要があります。現預金、売掛金、在庫、買掛金、借入金、固定資産投資、返済額を並べることで、資金の増減理由が見えます。

社長が毎月見るべき資料は複雑である必要はありません。月次試算表、資金繰り表、借入一覧、売掛金・在庫の増減表、主要投資の回収見込み。この5つがそろえば、資金の流れはかなり見えやすくなります。

さらに、前月との差だけでなく、3か月前、半年前、前年同月との差を見ることが重要です。売掛金や在庫は、単月では異常に見えなくても、数か月続けて増えていれば資金繰りを圧迫します。借入返済も、月次の利益と比較しなければ本当の負担は見えません。

私は、決算書分析を過去確認で終わらせず、資金の流れから企業体力を分析し、経営改善に使うことを重視しています。黒字なのに資金が残らない場合は、利益額を追うだけでなく、貸借対照表の中にある資金の詰まりを読み解くことが重要です。

黒字なのに資金が増えない会社は、損益計算書だけを見ても原因が分かりません。貸借対照表で売掛金、在庫、固定資産、借入金、返済の動きを確認し、資金がどこに使われているかを読む必要があります。利益を見る経営から、資金の流れを読む経営へ移ることが、年商10億円を超えた会社の安定経営に欠かせません。