赤字が3期続いた会社のご相談をお受けすると、経営者の口からまず出てくるのは「売上を、なんとかしたい」という言葉です。新規顧客の開拓、新商品の投入、Webマーケティングの強化、営業人員の増強。気持ちは、痛いほどよく分かります。
しかし、です。15年以上、再生の現場に立ってきた経験から申し上げると、このタイミングで売上から手をつけると、立て直しはむしろ遠ざかります。順序があるのです。順序を間違えると、現場が疲弊し、資金が削れ、経営者の意思決定が混乱します。
売上回復から手をつけると、
立て直しはむしろ遠ざかる。
本コラムでは、私たちCNCが創業以来、再生案件で守り続けている「立て直しの基本順序」をお伝えします。順序は次の4段階です。① 単年度黒字化 → ② 事業基盤の補正 → ③ ターゲット適合性の検証 → ④ 人と組織。なぜこの順序なのか、一つずつご説明します。
なぜ、売上から手をつけてはいけないのか
売上拡大には、必ず投資が伴います。広告費、人件費、設備、在庫。赤字続きの会社で、これに資金を投下することは、燃料切れの車にアクセルを踏み込むようなものです。短期的に動いたように見えても、燃料はさらに減ります。
赤字会社が最初にやるべきは、ペダルではなく、燃料効率の見直しです。同じ売上でも、利益が残る構造に変える。これが「単年度黒字化」です。
第1段階:単年度黒字化
「いまの売上水準のまま、利益が残る構造」を最優先で作ります。やるべきことは、ほぼコスト構造の見直しです。派手ではありませんが、確実に効きます。
- 事業別の収益貢献度を整理する稼ぐ事業と、足を引っ張る事業を区別する。複数事業を持っている会社では、これだけで利益構造が一変します。
- 原価構造を点検する仕入価格、外注費、製造原価。3年前と現在で、何がどれだけ変わったか。値上げ交渉、仕入先見直し、内製化判断。
- 固定費構造を点検する人件費、家賃、リース、減価償却。「これは聖域」と思っていたものに、聖域を作らない。
これだけで、多くの会社が単年度黒字化に届きます。実例として、3期連続赤字だった会社が、原価意識の浸透と組織編制で2年で黒字化したケースが、私たちのお客様にもあります。
第2段階:事業基盤の補正
黒字化が見えてきたら、次は事業基盤の点検です。多くの中小企業では、マーケティングまたはコスト統制、どちらかが極端に欠落しています。両方バランスよく整っている会社は、そもそも赤字になりません。
マーケティングが欠けている会社は、製品は良いのに伝わっていない。コスト統制が欠けている会社は、売れているのに利益が残らない。どちらか欠落している側を、まず補正する。これが第2段階です。
売上が一定以上ある → マーケはある程度動いている。コスト統制が弱い可能性。
まずどちらが欠けているかを判断してから、対策を打つ。両方同時に手をつけると、力が分散します。
第3段階:ターゲット適合性の検証
事業基盤が補正できたら、ターゲットの再検証です。とくに二代目・三代目経営者で多いのが、「先代の顧客で、今の市場とズレている」という状況です。
先代の時代に確かに通用したお客様、商品、提供方法が、いまの市場とどれだけ合っているか。これは経営者だけでは判断しにくい部分があります。私たちが第三者の眼で検証することが多いのも、この段階です。
ターゲットがズレていたら、商品、提供方法、価格、販路を整え直します。「攻める経営」は、この段階から始まります。逆に言えば、ここまでの黒字化と事業基盤の補正なしに攻めても、攻めの基盤がないのです。
第4段階:最後に、人と組織
最後が、人と組織です。意外に思われるかもしれません。「人が一番大事ではないのか」と。もちろん、人は一番大事です。だからこそ、立て直しの最後に持ってくるのです。
赤字続きの会社で、最初に組織再編をやろうとすると、現場は疲弊します。誰が異動するか、誰が責任を取るか、誰が辞めるか。立て直しの方向性が見えない中で人を動かすと、優秀な人から離れていきます。
逆に、黒字化が見え、事業基盤が補正され、ターゲットが定まった段階で組織を動かすと、現場には「ここからは攻めの局面だ」という空気が生まれます。同じ異動でも、意味がまったく違います。30人を超えた組織での権限委譲、適材適所の配置は、この段階で本格化させるべきです。
逆に、順序を守れば、想像より早く、確実に黒字化に届きます。
派手ではない。しかし、確実です。それが「自力経営支援」の意味です。