経営改善のご相談をお受けするとき、私が最初にお願いするのは、ほぼ例外なく「直近3期分の決算書、勘定科目内訳明細書、月次試算表」です。1期分だけでは、その会社の癖が見えません。3期並べてはじめて、数字が描く構造が浮かび上がります。
ここでお伝えしたいのは、決算書を「読む」のではなく、決算書から会社の物語を「聞き取る」という姿勢です。数字は、過去3年間の意思決定の集積です。社長が、どこに力を入れ、どこから目を逸らしてきたか。それは数字の中に、必ず残っています。
社長が何を見て、何を見なかったかが、
ページの中に残っている。
本コラムでは、私が3期分の決算書を受け取ったときに、必ず確認している7つのポイントをお伝えします。経営者ご自身が、月末・期末に自社の数字を眺めるときの、視点の整理になれば幸いです。
なぜ「1期」ではなく「3期」なのか
「決算書を見せてください」とお願いすると、直近1期分だけを持ってこられる方が多くいらっしゃいます。それでは足りません。1期分は、その年の特殊事情の影響をそのまま受けています。たまたま大口受注があった年、たまたま大きな支出があった年。それを基準に判断すると、必ず読み違えます。
3期並べて、はじめて「この会社の通常運転は、こういう数字なのだ」という感覚が掴めます。売上の傾向、利益率の安定性、固定費の増減、運転資金の必要量。これらは1点ではなく、線で読むものです。
PL構造で、3つのポイントを見る
損益計算書(PL)で、3期並べたときに必ず確認すべき3点があります。
- 売上構成の変化主力商品/主要顧客の入れ替わりは起きていないか。トップ5顧客の売上比率がどう変動しているか。一見売上が伸びていても、優良顧客が減って薄利顧客が増えているケースは少なくありません。
- 原価率の推移同じ業種でも、3期分の原価率を並べると、必ず動きがあります。仕入価格の変動、人件費の比重、外注費の増加など。原価率が静かに2%上昇していたら、本業の収益力が削られているサインです。
- 固定費の質家賃、人件費、減価償却費、リース料。固定費の増減を3期で追うと、過去の投資判断と現在のコスト負担の関係が見えます。「3年前の判断が、今になって効いている」ことは珍しくありません。
BS構造で、3つのポイントを見る
貸借対照表(BS)では、PLよりもさらに「構造」が出ます。経営者の判断が、長期間蓄積されたものがBSです。
- 自己資本比率の推移3期前から徐々に下がっているなら、利益が出ていない、もしくは出ても残っていない。逆に上がっているなら、内部留保が機能している。経営の「体力」を端的に示す指標です。
- 運転資金の動き売上債権・棚卸資産・買掛債務の三角関係。3期で並べると、運転資金の必要量が拡大しているか縮小しているかが見えます。売上が伸びているのに資金繰りが苦しい場合、ここに原因があります。
- 不健全な勘定残高役員貸付金、長期未収入金、棚卸資産の過大計上、固定資産の不良化。3期かけて残高が動かない・あるいは膨らみ続けている勘定は、何らかの判断保留を意味します。
経営者が、最も見落としやすい論点
多くの経営者が見落とすのが、「キャッシュフロー」と「会計上の利益」のズレです。PLで黒字なのに資金繰りが苦しい。あるいはその逆。これは異常ではなく、構造的にそうなる理由があります。
例えば、売上が前期比130%に伸びた場合。利益も出ているのに、月末の現金は減っています。なぜか。運転資金が拡大したからです。売上が増えれば、売掛金も棚卸も増えます。それを買掛金の増加で吸収しきれない場合、現金は外に流れていきます。
3期分のキャッシュフロー計算書、もしくは間接法でPL+BSから営業CFを再計算してみてください。「営業活動から、本当に現金が生まれているか」が見えます。利益と現金は別物だという感覚は、経営者にとって決定的に重要です。
3期で見えてくる、改善の入口
3期並べた決算書を眺めると、改善の入口は不思議とはっきりしてきます。「この数字が悪化している。原因は◯◯ではないか」という仮説が、数字の動きから自然と立ち上がってくるのです。
ここで重要なのは、仮説を立てたら必ず現場で検証すること。数字だけで判断すると、必ずどこかでズレます。原価率が悪化しているなら、現場で実際に何が起きているか聞きに行く。固定費が増えているなら、その判断をした責任者に話を聞きに行く。
数字と現場、両方を行き来することで、はじめて「打つべき手」が具体化します。これが、私たちCNCが創業以来、「現場と財務の両面から」と申し上げ続けている理由です。
しかし、3期並べて30分眺めるだけで、見えてくるものは大きく変わります。
その30分が、半年後の意思決定の質を決めると、私は思っています。