「決算書の数字が良ければ、融資は通る」── これは、半分正しく、半分間違っています。確かに数字は前提です。しかし、現場で何度も金融機関との面談に同席してきた感覚から申し上げると、担当者が決断のために本当に見ているのは、数字ではない場合が少なくありません。
では、何を見ているのか。一言で言えば、「この経営者は、自社のことを正しく分かっているか」です。決算書の数字は、過去です。融資は未来へのお金です。だから銀行は、過去の数字と同じくらい、「未来をどう語る経営者か」を見ています。
融資は、未来へのお金。
銀行は「未来をどう語る経営者か」を見ている。
事業性評価で見られている3つの観点
金融庁が「事業性評価」という言葉を打ち出してから、銀行の融資判断は確かに変わりました。決算書だけでは判断しない、という建前が定着しています。実際の面談で、担当者は次の3点を確認しようとしています。
- 経営者の認識力自社の強み・弱み・課題を、経営者本人がどこまで具体的に言語化できるか。「悪い数字」を言い訳せずに認められるか。これが、担当者にとって最初の評価軸です。
- 計画の現実性「来期は売上を120%にします」と言われても、その根拠が説明できなければ、計画ではなく希望です。なぜその数字になるのか、現場のどの動きと連動しているのか。連鎖が見えるかどうか。
- 実行体制計画を実行するのは経営者一人ではありません。幹部社員の名前と役割が出てくるか。月次でどう進捗を見るか。実行のための「人と仕組み」があるか。
「悪い数字」をどう語るかが、決定的
多くの経営者が、面談で赤字や減収について言い訳から入ります。「原材料が上がって…」「コロナの影響で…」「あの取引先がこんなことを…」。気持ちは分かります。しかし、銀行担当者の心は、その瞬間に少し冷えます。
担当者が安心するのは逆です。「赤字の主因は、私たちの判断ミスです」と認める経営者です。「3年前の投資判断で、固定費が膨らみすぎました。これは私の責任です。来期からこう調整します」。原因を外に求めない経営者は、信頼されます。
これは精神論ではありません。融資後、計画通りに進まないことは必ず起きます。そのときに、経営者がまた言い訳から入るのか、自責で対応するのか。担当者は、その将来を、最初の面談で読もうとしています。
月次試算表があるかどうかで、評価が分かれる
もう一つ、現場で痛感していることがあります。それは、月次試算表を社長自身が読めているかどうかで、銀行の評価が大きく分かれるということです。
「決算は税理士に任せています」という経営者と、「先月の試算表で、原価率がここまで動きました」と語れる経営者では、銀行から見た「見えやすさ」がまったく違います。前者は、年に1度しか現実を見ない経営者です。後者は、毎月、現実と向き合っている経営者です。
融資判断は、結局のところ「この経営者にお金を預けて、毎月の経営をやってくれるだろうか」という信頼の問題です。月次の数字が体に染み込んでいる経営者は、その時点で大きなアドバンテージを持っています。
面談前に整えておくべき、3つの資料
銀行との面談で、何を持っていけば伝わるか。基本は3点に絞れます。
- 直近3期の決算書サマリー(1枚)PL/BS/CFを3期分、横並びで1枚にまとめたサマリー。重要なのは絶対額ではなく、対前期増減率と、その理由のコメント。
- 向こう12か月の資金繰り表月次の入出金見込みを、12か月分。借入の返済額もここに含める。資金がショートする月があれば、その理由と対策も併記する。隠さない。
- 経営改善のシナリオ(1枚)「現状の課題 → 打つ手 → 期待する効果(数字) → 実行責任者と時期」を1枚にまとめる。1枚で完結する分量に絞ることが重要。
これら3点があれば、銀行担当者は「この経営者は、自社のことを分かっている」と判断しやすくなります。逆に、これらが整っていない状態で「融資をお願いします」と言っても、担当者は判断材料を持ちません。
数字と語り、語りと現場、現場と計画。
これらが一本の線でつながっている経営者は、強い。